【15】きかない薬を作るのが我々の崇高な使命なんだ(製薬会社の社長)

©️水木プロダクション

 製薬会社が提供する薬がなくては、医療は成り立たない。薬のおかげで多くの病気が治るのも事実だが、それをふまえても、製薬会社はある意味、奇妙な企業である。

 製薬会社の商品は薬 → 薬は病気を治すことが目的 → 病気が治ると薬は売れない。つまり、客を減らすことが目的となっている営利企業なのである。

 それは医療も同じで、医者は病気を治すことを目指すが、病気が治ってしまうと患者は来なくなり、収入も減る。だから、上手に生かさず殺さずの状態に持っていくのが、医療経営の要諦となる。がんや慢性病の治療はだいたいがこのパターンだ。

 世間にはナイショだが、製薬業界のお偉方は、もちろんこのカラクリを知っている。すべては患者さんのためとか、少しでも多くの人に健康をなどと、美しいセリフを発しているが、肚の底では薬を売ることを最優先に考えている。それを見抜いた水木サンが、社長に冒頭のセリフを語らせるのだ。

 この社長の会社は、巨大な本社ビルを構える大企業で、従業員も相当数いる。社長の息子・凡太もそのひとりだが、昼間からデスクで居眠りをしている。社長にとっては、この無能な息子が悩みのタネである。

 そこへねずみ男扮する『心配屋』が訪ねてくる。『現代ほど心配にあふれている時代はない』とセールストークを繰り出し、『この心配を本人に代わって解決する』のが心配屋だと持ちかける。社長は半信半疑だが、妖怪の力を借りれば大丈夫とそそのかされ、無能な息子をモーレツ社員に変えてもらうよう依頼する。

 凡太がマニラのゴミ山のような巨大な心配屋のビルに行くと、妖怪たちが凡太の肛門に『妖怪バリバリ』の卵を埋没させる。間もなく卵が孵化し、凡太はバリバリ働くようになる。

 深夜まで研究を続ける凡太に、父親が『もう寝たらどうだい』と声をかけると、凡太は『究極薬品』を作りたいのだと答える。それをのめば一切の病気はなくなり、『あるのは自然死だけ』という理想の薬である。

 父親は驚き、『そんなものを発明したら、日本の製薬業界は全滅するじゃないか』とたしなめる。そこで冒頭の一言を放ち、さらにこう続ける。

「いやむしろ薬をのむことによって副作用で病気がふえる……といったようなことが我々の産業発展のために必要なことなのだよ」

 何という露骨で正直な発言だろう。おまけに、『こんど医師会と薬剤師会で、四百四病では病気の数が少ないから、一万ばかりにふやそうという研究だって進めてくれているほどなのだ』と続く。あまりに本音を言い当てすぎて、こちらが赤面してしまう。

 これに対し、凡太は、『でもぼく非凡だからこの研究をやりとげます』と応え、『これが完成したら、この次は不老不死の研究にかかろうと思います』と言って、父親を狼狽させる。

 困り果てた父親が、『また心配がふえたぜ』と、心配屋に駆け込む。凡太を元の無気力な凡人にもどしてもらえないかと頼むと、料金は『一億円』と言われて父親は怒る。しかし、『凡太には妖怪が入ってるから、どんどん善いことをするぞ』とねずみ男に脅され、一億円払うことに同意する。

 凡太は心配屋で『妖怪バリバリ』を排泄させられて、ふたたびデスクで居眠りをする無能な青年にもどる。父親は厚労省と警察に訴えるが、心配屋のゴミ山ビルはもぬけの殻になっていた。

 水木サンは、製薬業界のあくどさをそうとう肚に据えかねていたようで、父親が一億円を吹っかけられたとき、『てめえ、現代のハゲタカだなあ』と怒ると、妖怪たちにこう言わせている。

「お前たちの方がよっぽどハゲタカだ。体に悪い洗剤を売ったり、ききもしない薬を大声で売ってるじゃないか」

 昨今、テレビで流れるサプリメントやトクホ(特定保険用食品)などのCMを見るにつけ、私は妖怪たちのセリフにうなずかざるを得ない。

 もちろん、まっとうに効く薬もある。しかし、すべてではない。ほんとうに効く薬は、宣伝などしなくても売れる。大々的に宣伝している薬やサプリメントの類いがどういうものか、推して知るべしだろう。

(「心配屋」より)

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