これほど冷酷で赤裸々な言葉があるだろうか。
政治は、社会的弱者や生活に困っている人々を救うことが、崇高な使命のはずだ。と、口で言うのは簡単である。しかし、現実はどうか。
ある日、『うじ虫と悪臭で有名な、東京の「夢の島」』に、巨大な『怪植物』が現れる。後に『マンモス・フラワー』と呼ばれるそれは、巨大な触手で伐採に来た職員やブルドーザーを蹴散らす。
丸顔の臨時清掃員が、『東京がフケツだからこんなものが生えてくるんだ』と、東京都政を批判すると、メガネ出っ歯にチョビ髭の都知事代理が現れ、『あなた、政治というものがわからないのネ。いかにして公共料金や物価を値上げして、いかにムダ使いするかが役人の重要なつとめだ』と諭す。
臨時清掃員が納得しないでいると、勲章をぶら下げた都会議員ことねずみ男が登場して、説明する。
『四百四十もある何をしているかわからない外郭団体……、そういうものに助成金を出したり……アメリカの都市とお友達になってみたり、どうでもいいようなことをするためにムダな役人をふやすのが政治よ』
『そんな考えだからあんな木が生えて、悪臭をただよわすんだ』と、臨時清掃員は反論し、ねずみ男の勲章にも、『てめえぇらで勝手に作ってぶら下げてるだけじゃねぇか』と非難する。
すると、メガネ出っ歯とねずみ男が口々に言う。
『そんな不健全な考え方をしとるから、いつまでたっても都政が理解できないんだ』
『だから貧乏するんだ』
臨時清掃員がクビになって家に帰ると、『マンモス・フラワー』が長屋に生えて、屋根を持ち上げる。
『都政の被害をモロにうけたってわけだ』と、臨時清掃員が嘆くと、高級車で通りがかったねずみ男たちがこう言う。
『てめぇの貧乏がわるいのだ』
『オケラだって自分の穴は自分でほるじゃないか』
そう言い捨てて立ち去るときに、冒頭の一言が放たれる。
ところが、『マンモス・フラワー』が銀座のど真ん中に芽を吹くと、都政幹部たちは慌てふためき、メガネ出っ歯の都知事代理はこう叫ぶ。
「お金持ちがかわいそうだ。早く自衛隊を呼んであげて」
もちろん、『マンモス・フラワー』は自衛隊でも歯が立たず、それどころか新宿や渋谷にもはびこって、東京は『石炭紀の大森林の様相』を呈する。これを駆逐するには、東京の不潔さを解決する以外にないと、植物学の世界的権威、黒洋三平氏(白土三平がモデル)が言うと、佐藤総理は『東京の地下に直径百メートルの下水をほろう』と言い、都知事代理は『都としては「夢の島」にフランスの香水をまこう』などと、うわついた発言をする。
黒洋氏が、『地上の人間のアタマにもバイキンが繁殖しているのだ』と喝破し、『ボヤボヤしていると、今に日本中が太古の原始林になってしまうぞーっ』と警告するに至って、政府や都の高官たちは『もう数字や弁舌だけではごまかしきれない』と知り、『政治の目的を「誰でも安心して最低生活が保証される」というふうにきりかえ』ると、『マンモス・フラワー』は地下に消えていく。
『貧しい人には救いの花であり、金持ちには呪いの花となった……とか』
とあるが、最後のコマでは、臨時清掃員が汗だくになってゴミと格闘している。ト書きに『マンモス・フラワー』についてこうある。
それはキビシイ「真夏の昼の夢」だった……
ここに描かれた水木サンの政治に対する不満、不信、絶望はどうか。
庶民から見れば、何をやっているのかわからない政策、ムダ使い、役人仕事の数々。金持ち優遇、目先をごまかすだけのキレイ事、裏で行われている談合、役得、忖度、公文書の改ざんや事実の隠蔽。今も世間の政治不信は増大する一方だ。
しかし、『マンモス・フラワー』の登場で、政治の不正が糺されてメデタシメデタシとしなかった最後のひとコマに、水木サンのニヒリズムが表れている。
所詮、政治は変えようがないという絶望。不正も不平等も矛盾も人権無視も、『マンモス・フラワー』のようなヒーロー(?)さえ登場すれば、簡単に解決する問題ではないということだろう。
(「マンモスフラワー」より)