【38】昔からチョコレートだってガムだって、名前の割に中身は変わってないじゃないか(芋あめ屋になったゴマ)

©️水木プロダクション

 ものを売るための戦略。

 中身を大して変えず、名前だけ変えて、さも新商品のように売る。車やパソコン、電化製品、スマホやゲームなどがその類だろう。でなければ、画期的な改良がそう定期的にできるわけがない。

 冒頭のセリフは、ねずみ男扮する経済コンサルタント“カルダン”から、『富がつく』首飾りをもらったメガネ出っ歯の“ゴマ”ものだ。

 ゴマは『芋あめ』の製造販売を手がけているが、利益率が2割であることを告白して、カルダンに『経営の仕方がまずい』と言われ、その首飾りをもらう。それをつけていると、『非情になり、面白いほどお金がもうかる』のだという。

 ゴマはさっそく芋あめを作っている妻に、『もっと「芋あめ」に水をたっぷりしみこませろ』と、水増しを命じる。妻は妻で、戸惑うどころか、『あら、どうしたの。急にたよりになるようなことをいったりして』と喜ぶ。

ゴマは『ビタミン、ミネラル入り 新芋あめ発売 ヒットあめ』と紙に書いて、従来の芋あめを新製品として売り出す。妻が『新製品じゃないじゃないの』と咎めたとき、ゴマが冒頭の一言で妻を諭すのである。

 果たして、『ヒットあめ』は大ヒットし、ゴマは大儲けする。さらには『芋じょうちゅう』『カリント工場』を作り、労働力は『そこいらの乞食(ママ)を安い金で集め』て確保し、蔵を何軒も建てる大成功を収める。

 ところが、町の富が一極に集中したため、飢えた住民たちが怒り、打ちこわしが行われる。ゴマはすべてを失い、首飾りの『福の神』がキツすぎたのだと気づく。

 この短編には、欲が深すぎることへの戒めがあると同時に、現代のあざとい商法が喝破されている。宣伝戦略のズルさだ。

 たとえば、歯磨き粉(この名称も古い)は少量で十分なのに、かつてのCMでは、当然のように歯ブラシいっぱいに塗りつけられていた。視聴者はそうするものだと思って、せっせと歯磨き粉を浪費した。

 食べ過ぎると身体に悪いものを、食べ過ぎさせようとするCMも多い。インスタントラーメン、スナック菓子、中華料理の素、ソフトドリンクなどなど。ビールのCMなど、好感度抜群のタレントが、さもうまそうに飲むので、見ているとつい自分も飲みたくなる。欧米ではアルコール依存の危険を踏まえて、日本ほど酒類のCMがないらしいが、そんな情報は“営業妨害”になるので、どこかでストップがかかる。知らないうちに、酒類のCMはこんなものだと思わされ、売上に貢献させられる。

 さらにひどいのが、サプリメント系のCMだ。タレントや俳優が高齢になっても元気に歩いている姿を示して、「私は~年、愛用しています」などと言わせる。元気に歩けているのも事実なら、愛用しているのも事実。だが、「愛用しているから、歩けています」とは決して言わない。それを言うと、公正取引委員会あたりに引っかかるのだろう。だが、そのCMを見た人の多くは、「愛用してるから歩けているのだな」と、思ってしまう。ウソは言ってない。誤解するのはそちらの勝手というわけだ。

 以前、「医者が見放したがんが消えた」とか、「余命三カ月と言われたがんが完治」などのような本もあったが、さすがにこれらは法律で取り締まられたようで、最近は見なくなった。

 とにかく売る側は、法律さえ破らなければ、どう売ってもいいというスタンスであると思っておいたほうがいい。あっと驚く新機軸、あり得ないいいとこ取り、だれもが求める優れもの等、キャッチコピー優先で、中身は二の次、三の次。水木サンはそのようなえげつない商法に、早くから気づいていたのだろう。

 だますほうも悪いが、だまされるほうも悪い。消費者は賢くなったほうがいい。そう思いつつも、拙著の新聞広告に、『読みだしたら止まらない』とか『著者の最高傑作』などと書かれているのを見ると、恥ずかしさと申し訳なさで、穴があったら入りたくなる。

(「君、富みたもうことなかれ」より)

タイトルとURLをコピーしました